「これからのクリエイティブディレクション」
浅井 雅也 氏
Droga5 Tokyo, Accenture Song
チーフクリエイティブオフィサー
北海道出身。米国でアートディレクションを学び、日米での経験を活かした創造性が国際的に評価される。2007年に日本人初のアジアベストクリエーターに選出。博報堂グローバルCD、Droga5 Tokyo設立メンバー。Apple「Shot on iPhone」などで100以上の受賞歴を持つ。
講義の内容
1. 自己紹介
2. これからのクリエイターの価値
3. 最後に
▼ 1. 自己紹介
浅井氏はまず、これまで日本とアメリカ、両方を拠点にいろいろなプロジェクトに関わってきた中でよくテーマになるのが、「日本の企業を海外の視点でどう見ていくか」ということを述べられました。グローバルな目線での考え方や伝え方について、講義やセッションを通してお話しすることも多いそうです。
浅井氏がクライアントの中で一番長くお付き合いしているのはAppleで、iPhoneやApple Watch、iPadなど、いろんなプロジェクトに関わっており、ユニクロともご一緒していて、「日本から世界へ」というチャレンジに取り組まれていたようです。
現在はDroga5 Tokyoの立ち上げメンバーとしても活動されています。Droga5は「クリエイティビティ」「ストラテジー」「システム思考(全体を俯瞰して構造を見る考え方)」「人のために(人の共感、共鳴)」という4つのDNAを大切にしている会社です。
Droga5は世界に8つの拠点があって、それぞれ違う成り立ちや強みを持っています。Accenture Songという大きな組織の中でいろんな会社と連携しながら動いています。
大事にしていることは3つあります:
Simple(シンプル):誰にでも、どこの国でも伝わるメッセージを。
Human(ヒューマン):人間らしさや共感を大事にすること。
Brave(ブレイブ):新しいことにも勇気を持って挑戦する姿勢。
▼ 2. これからのクリエイターの価値
いま、世の中の変化のスピードは、企業の変化よりも速くなっています。商品起点で物を売る時代から、顧客の体験を重視する顧客起点、さらにその人の人生全体を理解するライフ起点の時代へと進化しています。
Accenture Songはさまざまなスキルを持ったトップタレントたちが一つのチームとなり、企業のパートナーとしてビジネスの課題解決に貢献しています。デザイナーがただデザインをするだけではなく、考えるべき領域はますます広がっているのです。
クリエイティブディレクションにおいて求められるのは、表面的な表現ではなく、全体を俯瞰して見たときにそのピースがどこに位置しているのかを正しく把握する力です。つまり、ブランド全体の構造やストーリーを設計する視点が重要になっています。
最近の調査では、75%のブランドが明日突然消えても、人々は気にしないという結果が出ています。一方で、73%の人々はブランドに社会的な意味や意義を求めています。人々はモノを買っているのではなく、その背後にあるストーリーや価値観を買っているのです。たとえば、料理にしても、単に食材ではなく、生産者との対話や環境配慮といった背景が心に響くようになっています。
コロナ以降、企業やブランドで消えていったものも多く、必要とされないものは淘汰されていく時代になりました。本質的なものにこそ価値を感じる時代です。だからこそ、クリエイターは社会や文化の変化を察知し、それをブランドにどう落とし込むかを考える役割が求められています。
テクノロジーの進化によって、企業やブランドはすぐにコモディティ化してしまうリスクがあります。だからこそ、人、社会、文化に根付く存在であることが必要です。
生き残るためには、ブランドパーパスやビジョンという“北極星”が欠かせません。それがなければ、進むべき方向が定まらず、社内外で一貫性を持てません。「なぜこのブランドを選ぶのか」という問いに、しっかりと答えるためには、商品やサービスのクオリティだけでなく、ブランドとしての約束を掲げ、それを果たしていく姿勢が問われています。
たとえば、浅井氏が手掛けたTAP PROJECTでは、レストランの水を有料提供し、その収益を寄付する仕組みをつくりました。セレブリティの自宅の水道水をオークションにかけるなど、社会的な意味を持たせることで、価値を生み出すブランディングの事例になっています。
クリエイティビティは今、広告やマーケティングの枠を超え、事業そのもの、つまりバリューチェーン全体へと広がっています。ブランドがどこで触れられても同じ体験・価値が伝わる「一貫性」が求められています。形だけのパーパスではなく、約束を果たすことが重要であり、ビジネスの上流からエクスペリエンスデザインやサービス設計に落とし込む力が求められています。
Apple Storeもその好例です。かつては製品を触って確認する場所でしたが、今は「Today at Apple」などを通じて、クリエイターのための学びの場として機能しています。これは、クリエイティブマインドを育てることがブランドのパーパスになっているからです。
Today at Apple(日本)
こうした考え方は、世界中のエージェンシーに広がっており、カンヌライオンズのカテゴリー変化からもそれが見て取れます。もはや「何を作るか」ではなく、「そのクリエイティブが社会に何をもたらすか」が問われています。以下たくさんの事例をご紹介頂きました。
たとえば、ペット用品のPetcoは、健康診断を軸にしたウェルネスサービスへとリブランディングしました。ただドッグフードを売るだけでなく、病院と連携して健康ケアを提供することで、ビジネスの幅が広がり、社員のエンゲージメントも高まりました。
また、アメリカのダイナーのIHOPはブランドパーパスを「ファストカジュアルレストランの常識をひっくり返す」と再定義し、ピザの日にはピザ風パンケーキを提供するなど、商品開発と話題づくりを両立させています。
日本ハムの「Table for All」は、アレルギーや咀嚼の問題を抱える人たちのために、共感できるコミュニティとレシピを提供しています。単なる食品企業の枠を超え、たんぱく質の自由な楽しみ方を提案するビジョンに基づいて展開されています。
他にも、フランスのルノーは、仕事に就いた人が車を契約できるファイナンスプロジェクトを展開し、車を「売る」ことを超えた社会課題へのアプローチを実践しています。広告業界でも、こうしたビジネス寄りのアイデアが評価されるようになっています。
テクノロジーが進化するなかで、むしろ人間らしいクリエイティブの重要性が増しています。
ニューヨーク・タイムズの「Truthキャンペーン」では、フェイクニュースが蔓延する中で、真実を追求するジャーナリズムの価値を再提示しました。新聞を売りたいのではなく、正しい情報を届けたいという想いが、多くの共感を呼んでいます。
AIがどれだけ進化しても、最後に人の心を動かすのは、真摯なメッセージと一貫した体験です。CG技術によってすべてのグレードの部屋を再現できるデジタルツインや、海面上昇のリスクに立ち向かうツバルの「The First Digital Nation」も、人間の情熱とテクノロジーが融合した好例です。
YouTube - Preserving Tuvalu—the first digitized nation—in the metaverse
ハーレーダビッドソンは、100年以上にわたりアメリカのバイク文化を牽引してきました。かつては多くの若者にとって「自由」の象徴でしたが、近年はその若者世代が離れつつあります。
背景には、「自由」という価値観の変化があります。かつての自由は束縛からの解放でしたが、今では“わがまま”と捉えられることもあります。
リサーチでは、現代人が求める自由とは「デジタルに追われる日々の中で、自分と向き合う時間」であることが分かりました。
つまり、多くの人にとってハーレーは「バイクに乗りたい」のではなく、「バイクで自由な自分を取り戻したい」存在なのです。
これは今の時代における新しい“ウェルネス”の形と言えるかもしれません。
ハーレーは「最高の自分でいられる時間」を提供するブランドとして、ECやライフスタイルの統合、CIの再設計を通じて、次の100年へと進んでいくブランドの再構築です。
さらに、パラスポーツの普及を目指した「PARA PINGPONG TABLE」では、選手たちの障がいを反映した卓球台を作成し、体験を通じて理解を促進しました。限られた予算でも、強い想いとクリエイティブの力があれば、多くの人の心に届く活動ができることを示しています。
PARA PINGPONG TABLE|カタチにとらわれない卓球台 | パラ卓球協会 公式サイト
ヒューマンな体験は、広告に限りません。Appleがニューヨークの交通のハブであるグランドセントラル駅の歴史的建造物を購入してストアにするように、体験の中にブランドの姿勢を織り込むことが可能です。ユニクロのウルトラライトダウンのグローバル展開も、ただ軽いだけでなく、多様なライフスタイルに寄り添う価値をシンプルなフレームを作ってメッセージを伝えています。
▼ 3. 最後に
今回の講座では多くの事例をご紹介いただきました。そのためにこれから生き残るためには、ブランドパーパスやビジョンという“北極星”が必要で「なぜこのブランドを選ぶのか」という問いに、しっかりと答えるためには、商品やサービスのクオリティだけでなく、ブランドとしての約束を掲げ、それを果たしていく姿勢が問われているところはとても印象に残り、具体的なアクションが必要だなと痛感しました。
