クリエイティブディレクション講座 10回目 2月20日
「Design Futures」~美しい未来を実装する、創造性の未来~
引地 耕太 氏
クリエイティブディレクター/アートディレクター
1982年、鹿児島県生まれ。東京と福岡を拠点に、デザイン、アート、テクノロジー、ビジネスを横断し、ブランド戦略やイノベーション創出を手がけるクリエイティブディレクター/アートディレクター。
デザイナーとしてのキャリアをスタート後、「1→10」でNIKEやBOSE、TOYOTAなどのグローバルブランドのクリエイティブを担当し、2020年に同社のECDに就任。2022年に独立し、Fintechスタートアップ「Kyash」のデザイン責任者や東京造形大学の教育活動も手がけるなど、活動の幅を広げる。
2025年大阪・関西万博「EXPO 2025 Design System」のクリエイティブディレクター・アートディレクターを務め、未来を形づくるデザインに挑み続けている。
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講義の内容
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▼ 1. 大阪・関西万博デザインシステム「EXPO 2025 Design System」
今回は大阪・関西万博デザインシステム「EXPO 2025 Design System」を手掛けている引地氏です。
デザインの歴史の中でも、万博やオリンピックのデザインは大きな意味を持つことが多く、その詳細なお話が聞けるとはまたとない機会でした。
参考までに最近ではなく、1964年の方の東京オリンピックの様子はこちらです。
ポスターはとても有名ですよね。デザインの勉強をするとすぐこのビジュアルに出会うと思います。
東京オリンピック1964 デザインプロジェクト
講義の冒頭、引地氏は「デザインは時代と添い寝する」と語りました。1964年の東京五輪や1970年の大阪万博が、日本社会に「デザイン」という概念を広く浸透させたように、デザインは時代の流れとともに変化し、未来を形作る力を持ちます。そして、その未来をどう描くかが、今のデザイナーに求められているのです。
2025年4月13日から10月13日まで大阪・夢洲で開催される大阪・関西万博。そのテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。
デザインとは、ただ見た目を整えるものではなく、社会のあり方そのものを可視化し、未来の方向性を示すもの。引地氏は、「未来の社会をデザインするとはどういうことか?」という問いに真正面から向き合い、デザインを通じた未来社会のあり方を模索してきました。
現代社会は「VUCA(不確実性・複雑性・曖昧性・変動性)」の時代といわれます。情報はSNSで分断され、環境破壊が進み、人間はストレスを抱えながらデジタル依存を深めています。このような状況のなかで、デザインはどう機能し、どのような未来を実装していくのでしょうか。引地氏が導き出した答えのひとつが、「人間中心から生命中心の未来へ」という視点でした。
かつての社会は、自然を崇拝し、調和を重視する「自然中心」の価値観を持っていました。しかし、技術革新が進むにつれ、「システム中心」の社会へと移行し、効率性や生産性が重視されるようになりました。その後、個人の権利や価値観を大切にする「人間中心」の時代が到来しましたが、その結果として、社会全体が分断されるという課題も生まれました。では、次に目指すべき未来は何でしょうか? それは、すべての生命が共生し、響き合う「生命中心」の社会だと引地氏は語ります。
この発想の根底には、「壁」という概念があります。生命の本質を考えると、細胞はひとつひとつ壁に囲まれています。その壁は、生命を守るためにあります。しかし、壁があるからこそ、隣とのつながりが生まれます。つまり、壁を単なる「障壁」として捉えるのではなく、未来を共創する「インターフェース」として再定義することができるのではないか、というのが引地氏の提案です。
未来のデザインのあり方として、引地氏は「自律と共生」「融和と共鳴」「循環と共進化」という3つの方向性を提示しました。「自律と共生」とは、すべての生命がともに生きる環境を作ること。日本的な「和」の美意識を大切にし、自然界のあらゆるものに魂が宿るアニミズムの精神を拡張します。そこには、AIやバイオテクノロジーも新しい生命として含まれます。
「融和と共鳴」は、異なる要素が溶け合い、新しい価値を生み出すこと。日本の文化がこれまで異文化を取り入れながら独自の形に昇華してきたように、人間と自然、テクノロジーの融合によって新しい可能性を生み出します。そして「循環と共進化」は、これらが一過性の試みで終わるのではなく、未来へと進化し続けることを意味します。生体模倣技術の発展、AIやバイオテクノロジーの進化は、人間とテクノロジーの関係をより深め、循環的な共進化へとつながっていきます。
大阪・関西万博のデザインシステムは、こうした思想のもとで構築されました。ロゴデザインに象徴されるように、個々の「いのち」がつながり、共生する姿を可視化したものです。万博では、ポスターやロゴのデザインにとどまらず、リアルとバーチャルを横断するブランド体験が設計されています。アナログとデジタルを融合し、プロダクト・Web・AR・2D・3Dといったさまざまな形で展開されています。また、これまでのイベントのように「閉じたデザイン」ではなく、開かれたプラットフォームとしての役割を果たし、二次創作や共創を促すシステムとなっています。
実際に、7社ほどの鉄道会社がデザインシステムを利用して車体をラッピングしたり、伝統工芸の傘に万博のデザインシステムの柄を取り入れたりと、広がりを見せています。
「いのちが生きていく(細胞分裂)ようにどんどん広がっていく」とは納得の表現でした。
デザインシステム | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
▼ 2. 未来社会をデザインする——「生命中心」の視点とは?
実は未来社会のデザインに関しては以前から議論されておりました。
1960年、世界デザイン会議で掲げられた「来るべき社会において、デザイナーは何に寄与するのか?」という問いは、半世紀以上経った今もなお、私たちに投げかけられています。デザインは、単なるビジュアルやプロダクトの設計ではなく、社会そのものを形作る力を持つのです。
では、未来社会に向けて、私たちは何をデザインすべきでしょうか?
1. 人間と自然のデザイン
里山再生や地方移住、パーマカルチャーなど、自然と共生するライフスタイルの提案が求められています。
2. 人間とシステムのデザイン
AIアシスタントや脳機能インターフェースなど、人間の可能性を拡張しつつ、"人間らしさ"を取り戻すデザインが必要です。
3. 自然とテクノロジーのデザイン
スマート農業や人工光合成、XRによるバーチャルな自然など、テクノロジーと自然を融合させることが未来を拓きます。
これらの中心にあるのが、「生命(いのち)」という視点です。未来のデザインは、「便利な社会」を作るのではなく、「すべての生命が共生し、響き合う社会」を目指すべきではないでしょうか。
1960年の問いが今もなお重要であるように、私たちは未来に向けて、何をデザインしていくのか——その答えを考える時が来ています。
▼ 3. 最後に
万博という歴史に残る大きなテーマを考えるにあたって前半で思考の部分をかなり深ぼって聞けたのがとても興味深かったです。デザインでどう表現するかももちろん大事だと思うのですが、その手前のインサイトを見つけ、考え抜くことが本当に大事で、ここがしっかりしていないと後続のフェーズに影響が出てしまいます。今回の思考もとても参考になりました。
また、早いもので、万博がもうすぐ開催ですね。(2025年4月13日~10月13日まで開催)
こんな詳細なお話を聞いたらより気になってしまいます。(サイトもきれいです)
