IPKの、アートディレクター養成講座レポート - 第二十一回目
えぐちりか氏が語る、コンプレックスを武器に変える“生きるアイデア”
※本記事のタイトルはブログの内容からSTORYAIの機能でタイトルをつけました。
受講日:01月14日
講師:えぐちりか氏
株式会社電通
アートディレクター兼アーティスト
株式会社電通グループ
過去実績・経歴
コンフィデンスマン:広告グラフィック
イギリスD&AD金賞
スパイクスアジア金賞銀賞
インターナショナルアンディーアワード銀賞
岡本太郎現代芸術大賞優秀賞
LIBRO絵本大賞4位
講義の内容
1. 生きるアイデア
2. IDEA=「何だろう?」から「なるほどね!」に導く
3. 広告業界の現場のリアル
4. コンプレックスはアイデア次第で武器になる
1. 生きるアイデア
今回の講師は、アートディレクターのえぐちりか氏です。多摩美術大学大学院を卒業後、株式会社電通に入社。コンフィデンスマンの広告グラフィックや高橋大輔氏のフィギュアスケートコスチュームのデザイン、ラフォーレ原宿の広告など、多くのプロジェクトを手がけてきました。また、個人のアーティストとしても精力的に活動しており、ガラスでリアルな卵を表現したインスタレーションで岡本太郎芸術大賞を受賞。さらに、著書絵本「パンのおうさまシリーズ」を小学館から出版するなど、多方面で活動しています。アートディレクター、アーティスト、そして三男の母として、第一線で活躍している方です。
2. IDEA=「何だろう?」から「なるほどね!」に導く
講義の題材は「生きるアイデア」でした。講義は、えぐち氏がこれまでディレクションしてきた案件の紹介から始まり、「IDEAとは何だろう?」という問いが投げかけられました。えぐち氏は、「良いアイデアとは、『何だろう?』という疑問から『なるほど!』へと導くことが大切」と主張していました。この言葉を聞き、私はこれまで広告を担当してきた他の講師の言葉を思い出しました。電車や町のサイネージ、ビルに貼られる広告が人々に見られる時間はほんの数秒。そのわずかな時間の中で、多くの競合広告に埋もれず、企業の個性を際立たせながら視聴者の意表をつくコンセプトと、素早く伝わるデザインを両立させる必要があります。えぐち氏が手がけた案件を見ると、アーティスティックな世界観と、ノンバーバルに伝わる簡潔なメッセージが共存しているのが印象的でした。それはまさに、えぐち氏自身の言葉を体現しており、精密に設計された広告作りへのこだわりが伝わってきました。
3. 広告業界の現場のリアル
また、広告制作の現場での苦労や突発的なトラブル、リアルな制作過程についても詳しく語ってくれました。例えば、ラフォーレ原宿のクリスマス広告の案件では決まっていた方向性が急遽変更となり、本番のわずか一週間前に新たな案を考え直すことになったそうです。メイン担当だったえぐち氏はもう一人のプロジェクトメンバーとともに、連日夜遅くまでアイデアを模索。その中で「鼻がクリスマスツリーに見えたらどうなる?」という一言から着想を得て、実際に二人の顔にツリーを描き、簡単なビジュアルを作成してみました。しかし、仕上がりは到底広告になりそうなものではなくプレッシャーでお腹が痛くなるほどの状況だったといいます。ところが本番ではヘアメイク、スーパーモデル、カメラマンのレタッチ技術によってビジュアルが見事に洗練され、最終的にラフォーレで注目を集める広告となりました。この経験を通じて、「撮影時の見え方」と「レタッチ後の完成形」の違いを理解し、仕上がりを頭の中でシミュレーションできるようになったそうです。他にも、女性向け下着ブランドの広告では「ラクダのこぶでも盛れる」というコピーを表現するため、実際に撮影現場にラクダを連れてきたことも。しかし、現れたのは風呂上がりのように毛並みが異なるラクダで、さらに驚いたモデルが号泣するという予想外のハプニングも多々あったといいます。広告業界は、華やかで洗練されたイメージを持たれがちですが実際には泥臭く奔走しながら、現場全員で最高の一枚を作り上げる仕事であることが、えぐち氏の話からリアルに伝わってきました。
4. コンプレックスはアイデア次第で武器になる
講義の中で最も印象的だったのは、「コンプレックスはアイデア次第で武器になる」という言葉でした。えぐち氏はもともとグラフィック専門ではなく、ガラス工芸を学んでいました。そのため、入社後3~4年はなかなか成果を出せずに苦労したと振り返っています。しかし、自分の強みを見つめ直しグラフィック専攻の同僚たちと同じ土俵で戦うのではなく、立体制作のスキルを活かしたアートディレクションへとシフトチェンジしました。その結果「ドコモダケ」や「ピーチ・ジョン」の下着ブランドなどの案件では画面上のグラフィックの美しさだけでなく、実際に人を集めて撮影し、リアルな立体制作の感覚でディレクションを行いました。このアプローチが独自のアイデアにつながり、ラフォーレの広告で「鼻をクリスマスツリーに見立てる」といった斬新な発想も生まれたのです。こうした強みを活かした方向性を追求したからこそ、えぐち氏は突き抜けた活躍ができたのだと理解できました。えぐち氏は、「みんなと同じことができないことを嘆くのではなく、自分の強みに立ち返ることで、独自性や個性が生まれる」と語っていました。そして「誰もがそれぞれの可能性を持ち、一人ひとりに活躍できる場がある」とも述べ、その言葉は聞いていた全員に自信を与えたように思います。もちろん、クライアントの要件に応じて柔軟にクリエイティブを発揮することも重要ですが、クリエイターにはそれぞれ得意・不得意な世界観があります。その中で、自分の長所を最大限に活かせる表現を探し続ける姿勢こそが大切なのだと改めて気づかされました。
