生成AIをソフトウェア開発に使うことは、もはや珍しくありません。
コードの補完、エラーの調査、テストコードの生成。こうした使い方だけでも十分便利ですが、ここ1〜2年で開発現場に起きている変化は、もう少し大きなものです。
AIに「コードを書いてもらう」のではなく、要件を渡し、設計を考え、複数ファイルを変更し、テストし、ドキュメントまで更新してもらう。
いわゆる開発AIエージェントを前提とした開発です。
STORYAIでも、Claude、Gemini、Codexなどの生成AI・AIエージェントを段階的に開発へ取り入れてきました。
では、本当に生産性は上がったのでしょうか。
感覚ではなく、2024年以降のGitHubの履歴を振り返ってみることにしました。
サイバーエージェント社では「開発量約2倍」という事例も
きっかけの一つになったのが、サイバーエージェント社が2026年7月に公開した「数字で振り返る、開発AIエージェント導入支援から1年」という記事です。
同社では2025年6月から約1,200名のエンジニアを対象に開発AIエージェントの利用を支援し、Claude CodeやCodexなどの利用が拡大しました。
その結果、代表的な事例として、
- 開発量:約2倍
- モック制作:約3倍
- 監視業務:約10倍高速化
- 仕様書作成工数:約70%削減
- 実装工数:約50%削減
といった成果を報告しています。
一方で、これらは全社平均ではなく、各組織で確認された代表例であることも明記されています。(サイバーエージェント)
興味深いのは数字だけではありません。
同社ではGitHub Copilotのような「コード補完」を中心とした利用から、Claude CodeやCodexに実装・テストなどを依頼し、人間が成果物をレビューする開発スタイルへ移行しているとしています。(サイバーエージェント)
STORYAIにも、よく似た変化が起きています。
STORYAIの開発体制は3名のまま
今回の比較で重要なのは、開発人数です。
STORYAIの開発体制は、調査対象期間を通じて3名規模を維持しています。
したがって、単純な「人数を増やしたから開発量が増えた」という説明はできません。
もちろん、担当者の入れ替わり、プロダクトの成熟、CI/CDの改善など、AI以外の要素もあります。
それでも、同じ規模のチームがどれだけ多くの仕事を扱えるようになったかを見るには、比較しやすい条件です。
同じ期間のPull Request数は150件から547件へ
まず、STORYAIの主要リポジトリについて、2024年と2025年の1月1日〜8月21日という同じ期間でPull Request数を比較しました。
Dependabotなどの自動依存関係更新を除外しています。
| 期間 | Pull Request数 |
|---|---|
| 2024年1月1日〜8月21日 | 150 |
| 2025年1月1日〜8月21日 | 547 |
| 2026年1月1日〜8月21日 | 534 |
2024年から2025年にかけて、
150件 → 547件
となりました。
約3.6倍です。
さらに2026年も8月21日時点で534件となっており、前年とほぼ同じ高い水準を維持しています。
単純なPR件数を、そのまま「開発生産性3.6倍」と読み替えることはできません。
それでも、同じ規模のチームがGitHub上へ送り出す変更量が大きく増えたことは確認できます。
完了したIssueも160件から447件へ
Pull Requestだけではありません。
GitHub Projectsで管理しているSTORYAIのタスクを見ると、完了Issue数は、
| 年 | 完了Issue |
|---|---|
| 2024年 | 160 |
| 2025年 | 447 |
となりました。
こちらも約2.8倍です。
PRの切り方だけが細かくなったのであれば、Issueの完了数までは同じように伸びないはずです。
PRとIssueという異なる指標の両方で大きな増加が確認できたことは、今回の調査で重要だった点です。
AI処理を担うバックエンドでも27件から76件へ
STORYAIでは、Webアプリケーションだけでなく、AI分析やバッチ処理などを担うバックエンドも別に開発しています。
こちらのPull Request数も、
2024年:27件 2025年:76件
となり、約2.8倍に増加しました。
さらに特定の主要担当者に限定して比較しても、複数リポジトリを合わせたPR数が、
2024年:59件 2025年:172件
と、約2.9倍に増えています。
つまり、チーム全体の数字だけではなく、同じ担当者のアウトプットを追っても大きな変化が確認できました。
変わったのは「コードを書く速度」だけではない
数字以上に大きいと感じているのが、1回の開発で扱える範囲です。
以前であれば、一つの要求に対して、
フロントエンドを変更する、APIを変更する、データベースを変更する、AI処理を変更する、といった作業をそれぞれ分けて考えることが多くありました。
現在は、一つの要求から、
要件整理 → 詳細設計 → DB → API → UI → AI処理 → テスト → 静的解析 → ドキュメント
までを一つの開発単位として扱うケースが増えています。
たとえば最近の漫画解析機能の改善では、一つの要求から、
- 漫画画像からのコマ抽出
- コマ画像の保存
- データベースへの情報追加
- XAIによる感情分析
- API対応
- フロントエンド表示
- 後方互換性への対応
- README更新
- 静的解析
までが連動して変更されました。
これは単純に「タイピングが速くなった」という話ではありません。
一人の開発者が、一つの要求から扱えるシステムの範囲そのものが広がっていると捉えた方が実態に近いと感じています。
Issueそのものも詳細になった
AIエージェントを使うようになってから、実装だけではなくIssueの書き方も変わってきました。
最近のIssueでは、単に、
「この機能を追加する」
とだけ書くのではなく、
- 背景・課題
- 要件
- 詳細設計
- 変更対象
- データ構造
- エラー条件
- 後方互換性
- テスト方法
- 静的解析
- 動作確認結果
まで記載するケースが増えています。
これはAIに詳細な指示を与えるためでもありますが、人間にとっても設計意図が残りやすくなります。
AIエージェントを導入するとドキュメントが不要になる、というよりも、むしろ逆でした。
AIが実装できるレベルまで仕様を構造化する必要があるため、開発の前提となる情報が以前より明文化されるようになったのです。
2025年から「AIに聞く」から「AIに任せる」へ
振り返ってみると、STORYAIのAI活用にも段階がありました。
2024年頃は、生成AIを使ってコードを調べたり、実装方法を相談したりする利用が中心でした。
2025年になると、AIエージェントがプロジェクトを理解して実装できるよう、開発ルールやディレクトリ構成、テスト方法などをリポジトリ内に定義する取り組みが始まりました。
そして2026年には、AIエージェント向けの開発ガイドラインをさらに整備し、
要件 → 設計 → 実装 → テスト → 静的解析 → ドキュメント → Pull Request
という一連の流れそのものをAIと共同で進めるケースが増えています。
「AIにコードを聞く」から、
「AIと開発プロセスを回す」
への変化です。
「AIによって3.6倍になった」とはまだ言わない
今回の結果はかなり大きなものでした。
一方で、
「AIエージェントによってSTORYAIの開発生産性が3.6倍になった」
と結論づけるのはまだ早いと考えています。
Pull Requestには、機能開発だけではなくリリース作業やマージ作業なども含まれます。
また、
- 開発者自身の習熟
- プロダクトアーキテクチャの成熟
- CI/CDの改善
- 開発ルールの整備
- Issue管理方法の変化
なども生産性に影響します。
そのため、今回の数字から言えるのは、
3名規模の開発体制を維持したまま、AIエージェント活用の本格化と同じ時期に、GitHub上で観測できる開発アウトプットが大幅に増加した
というところまでです。
ただし、PRが約3.6倍、完了Issueが約2.8倍、AI処理を担うバックエンドのPRも約2.8倍という複数の指標が同じ方向を示している以上、AIエージェントが開発生産性向上に大きく寄与している可能性は高いと考えています。
次は「何件作ったか」ではなく「人間が何時間使ったか」
今回の調査で、一つ足りないデータも見つかりました。
人間が実際に何時間作業したのかです。
今後はGitHub Projects上で、
- AIエージェントを利用したか
- 人間が使った実作業時間
- 当初の見積もり
- 機能開発・不具合・運用などの作業種別
- リワークやHotfixの有無
などを記録していく予定です。
これが蓄積されれば、
「PRが何倍になった」
ではなく、
「同じ機能を作る人間の工数が何%減ったのか」
まで測定できるようになります。
開発速度だけを上げて、不具合が増えていては意味がありません。
開発量、工数、品質。
この3つを一緒に測る必要があります。
AIエージェントが変えたのは、3人でできる仕事の大きさだった
今回GitHubの履歴を振り返って、一番印象に残ったのは3.6倍という数字そのものではありませんでした。
開発チームは、大きくなっていません。
それでも、扱う機能は増え、AI、データベース、API、フロントエンド、インフラまで、一つの要求から触れる範囲は広がっています。
AIエージェントによって変わりつつあるのは、「コードを書く速度」だけではないのかもしれません。
3人のチームで、どこまで大きなソフトウェアを作り、運用できるのか。
その上限そのものが、以前とは少し違う場所に動き始めています。
参考
サイバーエージェント「数字で振り返る、開発AIエージェント導入支援から1年」(2026年7月9日)では、Claude CodeやCodexなどの利用拡大に伴い、一部開発組織で開発量約2倍などの事例が報告されています。なお同社も、各数値は代表事例であり全社平均ではないとしています。(サイバーエージェント)
※STORYAIの数値は2026年8月21日時点のGitHubおよびGitHub Projectsの履歴をもとに集計しています。Pull Request数はそのまま開発工数や機能数を表すものではありません。
